コラム

【コロリの草花だより】
vol.30 日本原産のヤマユリは容姿端麗、世界一の百合

「コロリの草花だより」第30回は、美しい花姿と甘い香りで私たちを魅了するユリにまつわる話です。


那須高原 2013年7月
ヤマユリはいろんな方向を向いて咲くので、花粉に要注意!


園芸の先進国イギリスでは自生する植物が数百種と少なく、珍しい植物を探してプラントハンターが世界各地へと採集に出かけた歴史がある。明治時代、海外と貿易を始めた横浜にもやって来て(日本の植物は四千種ほど)、彼らの注目を集めたのがヤマユリ。欧米のものより大輪で華麗な花をつける日本各地のユリは商品価値が高く、昭和初期まで重要な輸出商品として外貨を稼いだ。ヤマユリは神奈川県の花にもなっている。当時、航空便はないので横浜港から船で運んだが、ヤマユリの球根(ユリ根)は船上で腐りやすく、沖永良部島のテッポウユリの方が輸送には強かったそうだ。

ヤマユリの花は白い花弁に、黄色い筋と赤い斑点模様が豪華さを演出している。しかしこれは鑑賞する人間のためではなく、飛んで来る昆虫への対応だ。アゲハチョウは赤に反応し、斑点をマークしながら蜜の在り処へ侵入する(斑点を蜜標と呼ぶ)。ヤマユリの蜜はガムシロップ並みの甘さで、アゲハチョウは夢中で吸い、陶酔し、花粉を雌しべに付けてしまう。ヤマユリには独特の甘い香りもあり、夜になるといっそう強く漂う。これも人のためではなく夜に活動する昆虫、スズメガを誘っているのだ。昼夜、がんばるなあ。

ユリはユリ根と呼ばれるウロコ状の球根(鱗茎、食用にもなる)で育てるのが一般的だが、種から栽培することもできる(3〜4年かかるらしい)。その鱗茎を剥くとおよそ100片あるというので百合と書くようになった。純白のカサブランカは日本原産のユリを原種に1984年オランダでつくられた逆輸入商品。球根はマイナス1.5度の眠った状態に冷凍され、2ヶ月かけて船便で日本へ運ばれるそうだ。



プロフィール:田中晃二


通称コロリ。1947年長崎生まれ。教科書のデザインや女性誌『クロワッサン』のアートディレクションなどに関わる。2009年から2年間AZパリ支局に赴任。東北の渓流でイワナ釣り、里山や街の植物観察、旅行や俳句などが趣味。



Page Top