コラム

【コロリの草花だより】
vol.44 ユウガオか、ヨルガオか。

「コロリの草花だより」第44回は、ユウガオとヨルガオにまつわる話です。


3年ほど前、中央線阿佐ヶ谷駅北口でタイ料理の店を探しながら道に迷い、 路地裏に咲くヨルガオの花に偶然出会ったことがあるが、あれは夢の記憶?


月見の頃ともなればアサガオの夏の勢いは衰え、代わってユウガオが目立つようになる。涼しくなった夕方、白い蕾がゆっくり解けるように膨らみ、大きく開いていく様子を飽きずに眺めた子どもの頃が懐かしい。ユウガオと呼んでいたが、どうやらヨルガオが植物学的には正式な名称らしい。ユウガオはウリ科の野菜で、カボチャの花に似た白い花は瓢箪のような実をつける。これを剥いて乾燥させたものがかんぴょうだ。一方のヨルガオは熱帯アメリカ原産でヒルガオ科、明治初期に日本へ渡って来た。ちなみにアサガオもヒルガオ科。朝顔、昼顔、夕顔、夜顔、区別出来たかな?

『夕顔』は源氏物語に登場する。光源氏が民家の垣根に絡まって咲く白い花に惹かれ一枝所望すると、手に提げ持つには不格好だと扇に載せて頂戴する。その扇には『心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花』と、あなたは光源氏では?と誘う歌があった。源氏は『寄りてこそそれかとも見め黄昏にほのぼの見つる花の夕顔』と、近寄って見定めたい旨を夕顔に返す。そして逢瀬の後、哀れ夕顔は六条御息所の物の怪に取り憑かれ、息絶えてしまう。このとき登場する白い花が、楚々と野生味のあるウリ科のユウガオの花。もっと大きく妖艶な風情のユウガオ(正式名ヨルガオ)は、まだ日本では見られない時代の物語だ。

大きく開いたヨルガオの花を見ると、ジョージア・オキーフの白い花の絵が思い浮かぶ。画集でタイトルを調べたらヨルガオではなく『チョウセンアサガオ』とあった。こちらはナス科の薬用有毒植物。強い幻覚作用があり、江戸時代にかの華岡青洲が麻酔薬として研究したそうだ。なんだか怪しく危険な臭いがする花だ。



プロフィール:田中晃二


通称コロリ。1947年長崎生まれ。教科書のデザインや女性誌『クロワッサン』のアートディレクションなどに関わる。2009年から2年間AZパリ支局に赴任。東北の渓流でイワナ釣り、里山や街の植物観察、旅行や俳句などが趣味。



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