vol.09 気持ちを結ぶ前田麦

インタビュー

vol.09 気持ちを結ぶ
前田麦

ホリデーシーズンに彩りを添えるギフトに欠かせないものといえば、色とりどりのリボン。いつもは贈りものを引き立てているリボンですが、実は、それ自体の魅力を存分に引き出すと、驚くべき美しさを発揮します。そこで今回は、リボンを使った創造的な作品で国内外から注目を集めるアート・プロジェクトRibbonesiaを率いるアーティスト、前田麦(まえだ・ばく)さんにお話を伺いました。

vol.09 気持ちを結ぶ前田麦

Profile

前田麦(Baku Maeda)

1974年生まれ。札幌出身・在住のアーティスト/イラストレーター。札幌の豊かな自然環境にインスパイアされた作品を多く発表。2008年よりリボンを素材とした「Ribbonesia(リボネシア)」プロジェクトを始動。国内外で高く評価され、ファッション、広告、空間演出と多彩なジャンルで活躍している。


http://www.ribbonesia.com/

イメージをリボンでつくり出す

−−−イラストレーターとして活躍されてきた前田さんが、Ribbonesiaのプロジェクトをはじめた経緯を教えてください。

僕は今もイラストレーターとして活動しますが、学生の頃は、それこそIllustrator やPhotoshopなどのソフトでイラストを描いていました。しかし、僕自身の興味がデジタル表現からアナログ表現へ、絵から立体へと移っていく中で、粘土や木を使った作品も手がけるようになりました。その延長線で、リボンを使って立体物ができるのではないかと思いついたのがはじまりです。最初は家にあったリボンで試してみて、素材がやわらかすぎるなというのがあって...でも、もっと硬いハリのあるリボンでつくればイメージに近づくと思ったんです。僕の仕事では、こんな風に「直感で思いついて、取り掛かってみる」というやり方が多いですね。


床から天井まで大小さまざまな作品に囲まれたアトリエ。
まるでアート実験室のよう。



Ribbonesiaの作品はコロンとかわいらしい形ながら、
エレガントな雰囲気をまとう。



−−−Ribbonesiaの作品に動物をモチーフとする作品が多いのはなぜですか?

アトリエの壁にはリボンで彩られた本物のシカの剥製が飾られています。

僕自身、年に数回動物園に行ったり、ネイチャー系の番組を見たり、そもそも動物が好きな人間なんです。植物も好きですが、花を見て綺麗だなと思う感覚よりは、木の実や貝殻、昆虫など、生物的な形として「かっこいい」という感覚の方が強いですね。アトリエには、昆虫図鑑や動物図鑑も置いてあります。自然界には曲線があふれていますから、リボンとの相性がたまたま良かったのかもしれません。
それから、やっぱり札幌育ちなので、札幌の自然や季節の影響はあると思います。小さい頃、よく父親に連れられて、オオワシやアザラシを見に行ったりもしました。札幌は都会でありながらも、自然が近い。ゆったりした雰囲気なので、制作もマイペースにできるのかなという気がします。

−−−リボンといえばギフトのイメージですが、ご自身でも作品をプレゼントする時はありますか?

デザイナーである友人の結婚式に、オーダーメイドのブーケを贈ったことがあります。新郎新婦が喜ぶ姿をイメージした時に、花よりは変わったものがいいと思ったんです。それでサンゴをイメージしたブーケをつくりました。こうしたギフトも、日々のアートワークも、「イメージを形にする」という意味では一緒です。僕自身、頭の中のイメージを形にしたい、それを見てみたいという欲求や衝動で動いているんですね。だからこそ、できあがった作品を見て良いと思ってくださる人、共感してくれる人がいるというのは本当に嬉しいことだと思っています。


真っ白いサンゴ礁のような網の中から、カラフルなリボンが
のぞくブーケ。新郎新婦にとても喜ばれたそう。


トライアンドエラーを楽しむ

−−−初めて完成させた作品を覚えていらっしゃいますか?

最初につくったのは小鳥と犬ですね。頭の中のイメージに素材が追いつかず、試作にたどり着くまでに1年近くかかりました。リボンは、一度折ったりホチキスで留めて形にするとやり直しがきかないので、ハリのある紙テープで練習したり、雑貨屋さんに通っていろんな種類のリボンを試したり...。でも「これはいける!」という予感があったから、飽きることは一度もなかったですね。僕は、いわゆる立体造形の専門的な勉強はしていないし、手芸もやったことがないので、最初は奥さんに教わりながら、針で指をさしながら作品を縫っていました。最近やっと余裕が出てきましたが、不器用だからわりと続けられるんだと思いますね。


まるでリボンに命を宿すかのような、前田さんの手さばき。
特注リボンの絶妙なハリが、独特の曲線美を生み出しています。


−−−縫うといえば、ブローチは糸で留めている回数がとても少ないですよね。

取材後、前田さんがあっという間につくってくれた犬のモチーフ。糸で留める回数はたったの4回!

そうですね。例えば、猫や犬のブローチをつくるのに糸で留める回数は4回です。広告の仕事などは手法を変えて、作業の回数を多くしてリアルな造形に近づけることもありますが、ブローチなどは最小限の工程で最大に見せるように心がけています。鹿や鳥などの大きな立体作品は、実際の骨格を調べて骨組みを整えると軸がぶれず、きちんとその形になるんですよ。硬くてハリのある材料であればリボンの応用がきくので、例えば柔軟性のある薄い木板や、ニューサイランの葉を使ってみたこともあります。空間演出の場合には、ハリの強さが影響するのでリボンを垂らしたり、重力の影響も計算して制作しています。また、キュートな世界をつくったら、次はシックな世界をつくるなど、バランスも大切にしていますね。

創作活動を続けてノウハウが蓄積されていく中でも、今まで思いもつかなかった方法論が見つかった時が一番ワクワクします。つくっていれば失敗もあるけれど、失敗が多いと成功も多いですから。トライアンドエラーを楽しんでいます。

−−−「失敗は成功のもと」ということですね。お話を伺っていると、かっこよさを追求する実験好きの少年のような印象を受けます。

そうかもしれないですね。最近は新しい表現方法を試したくて、日々実験しています。春夏秋冬、それぞれの素材や環境で...。夏は塩水で描いた絵を太陽光で乾かしてみたり、秋は乾燥した葉っぱが収縮すると、動物に見えるんじゃないかとか。これからも新しいこと、誰もやっていないことに挑戦していきたいですね。


ひねって、しばって、ねじって、輪っかにくぐらせて...それだけでオリジナルの形ができあがる、リボンの魔法。1本のリボンで1つの輪っかをつくるだけでも、なんと5パターンの方法があるのだそう。「やり方を説明するとそれで終わってしまうので、自分でいろいろと試してほしい」と前田さん。リボンアートの楽しさを知る第一歩、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。





聞き手・テキスト:疋田祥世 撮影:水野聖二、古瀬桂(GAZEfotographica) 協力:FAbULOUS(札幌)


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