Vol. 11 マインドフルネスで世界は変わる川野泰周/髙城良子

インタビュー

Vol. 11 マインドフルネスで世界は変わる
川野泰周/髙城良子

集中力を高め、パフォーマンスをアップするとして、広い分野で注目されるマインドフルネス。現代社会において、自然と調和しながら、健やかに生きるための指針を示してくれるものでもあります。仕事を通じ、マインドルフルネスに深く関わるお二人に、マインドフルネスで私たちの生活がどのように変わるのか、対談していただきました。

Vol. 11 マインドフルネスで世界は変わる川野泰周/髙城良子

Profile

 

川野泰周(Taishu Kawano)

精神科・心療内科医、臨済宗建長寺派林香寺住職。心の病に対し、薬物療法との両輪でマインドフルネスを含む心理療法を取り入れている。講演活動のほか、一般の人にお寺を身近に感じてもらう取り組み「寺子屋ブッダ」にも理事として注力。『会社では教えてもらえない 集中力がある人のストレス管理のキホン』(すばる舎)など著書多数。





髙城良子(Yoshiko Taki)

タキアソシエイツ株式会社代表取締役。キモノドレスデザイナーとして活動後、現在はトータルブランディング、PR、商品開発などを幅広く手掛ける。2014年にマインドフルネスに興味をもち、David Nichtern 師に師事し、True Nature Meditation指導者養成講座修了。人々がマインドフルネスに気軽に親しむための場づくりに力を入れている。


禅とマインドフルネスの絆に導かれて

川野 髙城さんの経歴を拝見したのですが、キモノドレスデザイナーとしてご活躍していらしたのですね。私も日頃、和装で古式ゆかしいスタイルが決まってしまっているものですから、アレンジできるといいな、素敵だなと思いました。


髙城 はい、KOYONASI(こよなし)という源氏物語からの古語、この上ない、格別のという意味を持つブランド名でオーダーのみでキモノからドレスやバッグをお作りしていますが、現在はwell-beingに関連したPR、商品開発などの仕事が中心です。もともと「タンスに眠っている着物がもったいない」という思いからキモノのリメイクを始めたのですが、根本にある気持ちは今の仕事でも変わっていないんです。例えば歌舞伎座新開場記念で発売し今も販売中のお菓子「KABUKU〜へん』を花魁の「重ね草履」の形にするアイディアを出したり、伝統に命を吹き込むということを大切にしています。

 

川野 今回のテーマであるマインドフルネス。定義としては今、この瞬間をあるがままに評価すること、自分や周囲の状態を五感で感じ、それによって生じた自分の心も観察していくこと、ですね。坐禅とも通じる思想ですが、髙城さんは、どのように関わりを持たれたのですか?

 

髙城 子供がまだ幼い頃、育児と仕事で慌ただしい毎日を送っており、いつも「心ここにあらず」の状態でした。駅から家に向かう道すがらなど、移動中も常に次の段取りを考えながら行動しているので、ハッと気づけばもう家に着いている。ワープしたみたいに感じるんです。呼吸も浅くなっていました。
そんななか、5年前ですね。仕事で関わっていたTrue Natureというヨガスタジオの代表の方から日本でスタートすると伺ったのが、マインドフルネスメディテーションの講座です。デイビッド・ニックターンという、まさにNYのビジネスマン向けのマインドフルネスを学ぶメソッドをつくった瞑想の世界的指導者の先生が来日され、学ぶことができ、今も学んでいます。日本の鈴木先生という方にアメリカで、出会われて、日本にいつか教えに行きたいと思っていらしたそうです。

 

川野 鈴木俊隆先生、曹洞宗の伝説的な方ですね。『禅マインド ビギナーズマインド』という著書を書かれていて、アメリカに禅を紹介したことでもよく知られている方です。
マインドフルネスは主に、インドのヴィパッサナー瞑想をルーツにしており、瞑想で何が起こるか、どんなふうに心身に影響するかといったことを、言葉を使って説明する。いっぽう、日本の禅は行入(ぎょうにゅう)といって、まず行動から学んでいくというところに違いがあります。
日本にマインドフルネスが紹介されたときに、その点でなかなか禅と相容れないことを残念に思っていたのですが、かつて鈴木先生とデイビッド先生のように出会いがあって、結びつきができていたということを知り、とても素敵だなと思いました。世界と心がつながった気が致します。
そして、マインドフルネスを学ばれて、髙城さんご自身の生活はどのように変わったのですか?

 

髙城 私の学んだメソッドでは、週のうち4〜5日、15分から20分ほど坐ることをまずは8週間続けると脳の構造にも変化が起きてくると、教わります。そのうちに一挙手一投足に心を込めるといった感覚がつかめ、例えば信号待ちの間といった、ちょっとした時間で心を整えることが可能になります。私の場合は心の面で、気持ちの落ち着きや、自分の行動を俯瞰でき、第三者の視点を持てるといった効果があったのですが、身体の面での変化も大きかったです。免疫力がアップしたというのか、アレルギーの症状が瞑想でコントロールできるようになりました。

 

マインドフルネスのポジティブな伝播

髙城 今、もっとマインドフルネスを広く知ってもらいたいという気持ちが高まって、仕事を通じて、気軽に瞑想したり、マインドフルネスを学べるような場所づくりに力を入れているんです。
例えばフィットネスジムに通うように「メディテーション(瞑想)に行ってくるよ」という生活スタイルがNYではすでに当たり前になっていますし、日本でも来年あたりから、瞑想できる場所がどんどんできてくるようです。
マインドフルネスを実践している人には、地球環境やSDGsなどに興味がある方もやはり多いんですね。場所を設けることでそうした人の縁が次々に結ばれていくので、自然との共生ですとか、世界平和のためにもとてもいいことだと思います。

 

川野 私も「世界平和のために禅をやっているんです」というと「ずいぶん大げさですね」と驚かれるんですが、マインドフルネスをやっていると本当にそう思えますよね。誰もが恥ずかしがらずにそう言える日が早く来るといいなと思います(笑)。
世界の人が幸せになるためには、まず身近な人に対して笑顔でいることが大事です。マインドフルネスにはまさに、伝播する性質があるんです。
クリニックでマインドフルネスを取り入れている患者の皆さんがよく言われるのが、家族や職場の人がやさしくなったり、機嫌がいい日が多くなった、ということです。それはなぜかというと、患者さん自身が周囲に対して、笑顔や言葉などでポジティブなサインを発していて、それが知らず知らず周囲に影響を与えるからなんですね。
マインドフルネスをテーマに集える場がたくさんできるということは、そういったポジティブな伝播が多くの場所で起こっていくということですから、大変素晴らしいと思います。

 

自然とつながるための、2500年前からの叡智

髙城 皆さんカフェに行くと、PCやスマホを電源につなげて、ワーッと仕事をしたりされています。でも、ちょっと充電中のスマホを置いて、坐れる場があるといいですよね。「デジタルデトックスカフェ」と言いますか......。やはりマインドフルネスが日本に入ってきて、ここまで必要にされるようになったのも、スマホによる情報過多の影響ですよね。

 

川野 私もクリニックに来られる不登校の子どもさんに一番最初にやってもらうのが、寝室にスマホを持って行かないということ。これを続けるだけで、再登校できるようになるお子さんが多いです。遅くまでゲームをやったりと、常に情報が入ってくる状況に置かれることで、注意がそちらに奪われてしまうんです。そこに置いておくだけで睡眠の質が悪くなるんですね。
それから鎌倉で今やっているのが、3000円ほどの料金でスマホを数時間預かるというサービス。高いようですが、3000円以上の価値があったと皆さんおっしゃいます。
グーグルマップがなくて道に迷ってしまうので、商店なんかで道を聞きますね。場合によっては電話を借りたり、トイレを借りたりする。そこでコミュニケーションが生まれるわけです。「ああ、昔こうだったね、この感覚をすっかり忘れてた」と、すがすがしい気持ちで帰られるらしいです。

 

髙城 スマホを始めとして、情報過多社会はこれからどんどん進んでいく一方だと思います。そのなかで人間が思い出さなければならないのは、どう自然とつながるか、人間自体が自然であるということです。マインドフルネスはそれを可能にしてくれる、(仏教が開かれた)2500年前からの叡智だと思いますね。

 

川野 今になってマインドフルネスが注目されているのも、情報過多に対する問題意識を持つようになってきたということですね。1970年代80年代、モータリゼーションによって公害が激しくなりましたが、今はエコになって電気自動車やハイブリッドカーが開発されています。
それと同じように、数年後にはスマホとの向き合い方も成熟してくるのではないかと期待しています。どういうふうに気持ちを切り換えるかという技術もそうですね。マインドフルネスはまさに、気持ちの切り換えを行う上で非常に役立つ考え方でもあります。だからこそ、ビジネスの世界でも非常に注目されているんですね。このように、現代社会においてさまざまな分野でマインドフルネスに期待されていることが多くあります。今後ますます広がっていくのではないかと思います。

 

髙城 私も、ここ数年で大きな変化があるのではと感じています。楽しみですね。

聞き手・テキスト:圓岡志麻 撮影:高重乃輔

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